第2次スーパーロボット大戦α
ゼンガールート最終話「神を断つ剣」
に”焔鋼”を込めて
「吼えよ! 超武神」
この地、地球に来訪したモノは、「襲撃者」である。
数々の星を制圧し強烈な帝国となっているゼ=バルマリィ帝国、知的生命体の殲滅という単純な行動理念だけで蠢く「宇宙怪獣」らの襲撃。
それらに対するは、SDF艦隊こと「ロンド=ベル隊」、この地球唯一の平和求めて戦地に向かう軍隊、それはまさに地球最後の希望の矢であった。
放たれた希望の矢は止まることなく、宇宙からの襲撃だけではなく地球内で起こる幾多の動乱をも鎮めていく。
しかし、その幾多の戦いで精錬された存在こそがゼ=バルマリィ帝国の欲する”力”だったが、ロンドベル隊は帝国の手を振り払い、宇宙怪獣をも撃破する。
人類は勝利した・・が、撃破した際に使用したブラックホール爆弾によるエーテル衝撃波が、地球圏に襲い来るという事態になってしまった。
その災厄に人類は、超強大なエネルギーの盾で地球圏を覆うという単純明快なイージス計画を発案するのであったが、それすらも新たな火種となり、プリペンダーと名を変えたロンドベル隊は、時空をも超える戦いを経て、イージス計画を無事発動、人類は生き延びたのである。
それにて異星人の襲来から始まったバルマー戦役の終結を示す。
バルマー戦役の終結、悲しき事にそれは地球人類の平和と安息を意味しなかった。
星を亡くし星を求める者達、生身と心を見捨てた機械の者達、この星の先住民を名乗る地中に住まいし者達、そして、地球という大地とそこに住む人類を見限った宇宙に住む人類達、地球圏は再び争乱の嵐が巻き起こった。
地球から38万q離れている衛星「月」、重力が低い為、機動兵器などの開発・生産の基地などがあり、そしてイージス計画の要であるエネルギー発生装置があったこの地は、バルマー戦役の最終決戦地とも言われている。
その星は、地球を中心とした今回の争乱に巻き込まれる事無く、静かに・・静謐であった。
静謐の星での一つの砂の海に、いびつな形をした女神像が砂の海面で眠りについていた。
・・・・正確には、女神を模した人型の機体が、外部からの攻撃で半壊状態となって、ここ、砂の海に着面しているだけであり、そして、ソレは今起きた。
そう、ソレはこの海に墜ちてきてから数度目の目覚め、いや、睡眠状態を解除して『起動』する。
女神の一つのシステムは、いつもの様に映る地球を認識し、地球の大気圏近くの一カ所に集中した数々の光の点滅と衝突、ロボットを駆る者達の戦争をまた見る。
「・・・まだ戦いの地か、あの男は・・」
争乱の光を目にし、女性の意識はそう呟き、そして地球から目を離し、周囲に広がる月面に意識を傾ける
「・・此処を牢獄とする・・・永遠に、・・これが黄泉の巫女の末路か、いや・・此の地は黄泉比良坂、我が名に相応しき、行く末なのだ・・」
女神の機体内の酸素残量を示す灯りはついてはいない、人類が生きていくに必要な酸素はここには無く、生も存在していなかった。
女性の意識といえるそのモノの名は「ククル」
ロンド=ベル隊の戦士達が再び結成したαナンバーズの一人ゼンガー・ゾンボルトと確執があった者、ククルはゼンガーが守護する人類希望の一つ「アース・クレイドル」を、ゼンガーの尊敬する「ソフィア博士」もろとも壊滅させ、そしてゼンガーは、ククルが忠誠を誓わなければいけなかった邪魔大国の女帝「ヒミカ」ーククルの家族を石化させ、そしてソレを解ける者ーを、邪魔大国の地上制服の野望と共に打ち砕いたのであった。
互いに互いの希望を打ち砕いた二人、だが生かして捕らわれの身であったソフィアはククルの止まった心に歩み、ククルの立場を知ったゼンガーは、復讐の念を捨て、戦士として戦いの決着を求めた。
そして戦いの結果は、戦士として勝利したゼンガーの「未来に生きよ」の言葉に、ククルは過去から解き放されたが、そこに「クストース」と呼ばれている謎の機動兵器の急襲を喰らい、絶命してしまう。
彼女は、ククルという者は、その時点で命を落としていた。 だが、運命からは外れていなかった。
月面から「ククル」が在るコクピットに意識をやる。機械が無骨に複雑に統制もなく複雑に入り乱れ、意識があるかの様に蠢き、ククルの身体すら機械の領域に侵している。
それは「喰らい合う」の一言の絵図であった。
「不完全ゆえに揺れ、そして新たな不完全を起こしたか・・」
己の滑稽な姿に失笑しながら、ククルは言葉を漏らした。
ーマシンセルの暴走ー クストースの衝撃波で絶命したククルが再び見た現世はソレだった。
ゼ=バルマリィ帝国の技術で造られたズフィルード・クリスタルを応用した、ナノマシンの一種である「自立型金属細胞」マシンセル、邪魔大国に拘束されていたソフィアが開発者で、この女神を模した機体「マガルガ」に搭載し、自己進化・自己再生の恩恵をこの機体に与えたのだが。
クストースの衝撃波で機体が爆発した時に、完全破壊とならなかったマシンセルは暴走し、機体の再生に分別の判断を無くしてしまった。
それはククルすらも機体再生に必要な分子の一つと見なしたと同時に、機体の破損個所とも見なしてしまい、暴走の自己進化と自己再生の結果、ククルを機体システムの一つとして吸収・再生、身体を機械に取り込まれてしまう。
この生き恥をさらす様な結果にククルは、別段に怒りは感じなかった。むしろこの結果を「因果応報」という言葉で受け止め、心安らかにこの場に居続けている。ある一点を除いて。
どうやら暴走したマシンセルは安定する事を思い出す事なく、マガルガの再生にククルだけではなく、一番身近な己の機体を喰らい、そして喰らった部分を再生する為にまた喰らう。などという無意味な再生と進化を繰り返している為、マガルガのシステムと同化したククルは、意識内に波のざわめきの様な雑音が響き合い、それは彼女にたいする拷問の様に心を引っ掻いていた。
(私の罪は死して消えていいモノではない・・ん? ・・クゥゥゥ・・・・・ンンんン!!!!!!!)
突如として、ククルの意識に轟音を超えた雑音が鳴った。
ククルは声にならない絶叫を上げる・・途端に凄まじい雑音は止まり、それと同時に全ての雑音が彼女の意識から引いていた。
システムとなる前の名残で、肉体の形が残った半身の肩で息をする動作をしてしまうククルだが、彼女が自分の世界と機械が安静を取り戻した事に気付いた後に、雑音ではないハッキリとした音、いや声が意識内に伝わってくる。
『すまないが、静かに話したいゆえ、貴殿のマシンセルを我が管理下に置かしてもらった』
「なっ・・・、管理下だと!? このマシンセルを? お前は何者だ!?」
突然の乱入者の所業に驚くククル、その彼女の目に映るスクリーンに一つのウインドウが開き、乱入者の姿が映し出された。
ソレはひし形が二重に貼られた形をしており、マガルガの機体にポツンと張り付いて、その余りにも簡単な作りは、機体そのものというより、何かのパーツか飾りのようであった。
『私はマシンセルの制御装置、私を駆る者のパーソナルデータを以って、いま貴殿と会話している』
「マシンセルの制御装置? 駆る者だと? 虚言を! マシンセルを搭載した機体はこのマガルガのみ! あの者が私をたばかったとは思えん!」
『あの者・・ソフィア・ネート博士・・・私もまた、ソフィアゆかりのモノである。だが、時を違え、道を誤り、そして今、この時この世界この地に、私はいる』
「・・・時を・・違え・・? それはどういう事だ?」
いきなりククルの視界に宇宙が広がる。それはククルに送られた映像データであった。
ククルは気づく、自分の胸元に一つ、青く輝く星、この地に落ちてから、ずっと目にいれていたもの。
「地球・・」
そして、この映し出されている宇宙、ククルの遠く彼方よりから何か波動が、地球に襲いかかってくるかの様に広がってくる。
その波動にククルは聞き覚えがあった。
「前の戦乱で地上の者が外敵を滅ぼす為の爆発の衝撃波か、しかしそれは・・・」
ククルが語るよりも先に変化が生じた。
月面から放たれた光が広がり、それは地球圏を覆い、守護する光の盾となるがしかし、それは盾の役目を瞬きも果たすことなく砕け散る。
「これは!?」
その映像は、ククルの知る結果ではなかった。そう、「イージス計画」は成功したのである。だからこそ、マガルガのコクピットのスクリーンには、自然の緑と青が美しく混ざりあっている地球があった。
だが、ククルの目の前に広がっている映像の災厄過ぎ去りし地球は、荒廃の一色に染まっていた。
「この様なマヤカシを私に見せて何のつもりだ!? あの地球を見れば、この様な事が起きておらぬなど分かる。それともこの児戯で私をからかっているのか?」
この映像に意図が見えぬ為に、少し声を荒げるククルに対し、映像をだした主は全く何ら変わることなく、淡々と言葉を発し始める。
『この映像はもう一つの時、先ほどの盾を形成するのに必要であった、貴殿の知る言葉で言うならば、αナンバーズが、これよりも先の戦いで発生した時空の歪みに巻き込まれ、未来に跳ばされた。・・・・故に、時は、道は二つに別れた』
その言葉は余りに突拍子もない事を意味している。ククルにとって、それは信じきれる事柄ではなかったが、この暴走していたマシンセルを制した技術が、未来の技術でなければ説明はつかない。
そして、もう一つ、このモノの言葉を信じれば、説明がつく事がある。
「それが真実ならば、お前は・・アース・クレイドルの機体のマシンセルの制御装置、そして、お前のパーソナルデータの元、お前の主は・・・ゼンガーか」
もはや疑問でも何でもなかった。ククルは確信をもって声の主に聞く。
『そう、私はスレードゲルミル、元の機体名はグルンガスト参式、そのパーツの一つであり、主の名はゼンガー・ゾンボルト』
「つまりアース・クレイドルはその役を果たしたという事か」
『だが』
ここで初めて、声は言葉の流れを変えた。
『中枢コンピューターであるメイガスは、生き残った人類の愚行の繰り返しに絶望し、思考の暴走の果てに、人類抹殺こそが正しき道という答えに辿り着いてしまい、イージス計画そのものの破壊を考え、過去へと跳んだ』
宇宙を映していた映像も一変し、イージス計画の月面施設での出来事へと変わる。
それは激戦の映像であった。
ククルの見知ったαナンバーズの機体と見知らぬ機体に混じって、一振りの巨剣をもって戦う特機に目をやる。その巨剣ととった構えからゼンガーと分かり、そして、そのスレードゲルミルと言っていた機体の巨剣の鍔の飾りが、声の姿と同じである事にも気づく。
その構えの先に、毒花が女性を模したかの様な機体が対峙していた。そして凄まじい気を発しながら巨剣を振り下ろす、瞬きであったが迷いの気をククルに感じさせながら。
巨剣の一撃は毒花の花を断った。金属の花びらが地面に落ちる中、スレードゲルミルは雄叫びを上げた様であったが、勝どきの雄叫びという感じはせず、発狂に近い悲しみに満ち溢れたモノを感じさせていた。
そしてククルはその様子に覚えがあった。事の始まりであるアース・クレイドルを壊滅させ、ゼンガーの目の前でソフィアを殺したと見せかけたあの時の怒りと悲しみに混じった雄叫びに。
ククルのその覚えは、ただの近視感に終わらなかった。毒花の散った残骸に、ソフィアは混じっていた。
その図に理解と不理解が混じり、ククルはただ言葉を失うしかなかった。
『メイガスは外的な行動の為、そして、ガーディアンであるゼンガーを合理的に操作する為に、ソフィアそのものの記憶操作をし、その存在をメイガスとして乗っ取った』
事実に驚愕し頭を垂らし、影を落とすククルに対して、声は始まりから変わらず淡々と言葉を流す。が、状況がそうさせるのか、何らかの感情が含んでいたかの様に感じてしまう。
「それで・・・それでこの様な絵を私に見せて、いったい何を!?」
ククルは自分の中にある感情を、そのまま吐き出しながら叫んだ。だが映像はククルの感情に関係なく、そのまま事実を流す。
映像が次に写したのは、深青の禍々しさを感じせる機体が、彼らの前に現れ、深青は空間を支配し破壊し、スレードゲルミルを半壊状態にし、そして、白銀の機体が深青の前に阻むかの様に対峙する。しかし、その映像に全くククルは介入しなかった。
「管理下に置いたと言ったな。私もソレに入っているならば、私の記憶を知ったはず、・・・私に引導を渡しに来たか? アース・クレイドルを私は壊滅させたのだからな・・・」
『否』
「何故だ? 知ったなら私が憎むべき・・・」
『全てを知ったからこそ、憎むべき者ではない事を解している。もはや当人が決着をつけた事、私の出る幕は無い』
「では何故、その上で私に接触してきた?」
『今の地球圏の状況を詳しく知りたい為だけであった、時の流れが変わった事により私の預かり知らぬ戦乱が起こる事は予測範囲内であったが、貴殿の記憶に全く因果が掴めぬイレギュラーがいる』
「イレギュラーだと」
『貴殿の命脈を絶った獣を模した機体、あれだけ強大でありながら、その存在が読めぬ。
先の戦いの最後の半壊となったスレードゲルミル本体は、ほぼその機能を失ったまま元の未来に帰り、私は切り離された状態でこの地に残された。言わば偶然にここにいるのであり、だからこの時の世界に介入せず、傍観者としている事を決めていた…が、この強大な不確定要素の存在とゼンガーの覚醒、私が今この地にいる事が必然、この時のゼンガーの力となれと』
「だからか、お前はマシンセルの制御装置、目当てはこのマガルガのマシンセルか」
『御意』
「それならば合点はいく。だがそれならば、何故マシンセルを一気に取り込んでゼンガーの元に行かぬ? お前ならば私に構わずその様な事出来るはずであろう」
『貴殿の意思を確かめたかった。取り込むならば、このマシンセルと融合している貴殿をも取り込む。そうしたならば、完全に貴殿はシステムとして組み込まれてしまう。だからこそ、こちらの事情を・・・』
その声を遮って、ククルの口から笑い声が出た。
「ふはははは、お前はマシンセルの制御装置であろう? ならば機械の分際なのに、この様な回りくどい事を、流石はあの男の人格を模しただけの事はある」
愉快さに笑うククル、そして嬉しさに笑い、目に水分が移動していく事を、声は感じ取っていた。
「好きにするがいい、死んだこの身があの剣の役に立つならば、これ以上の役立てはあるまい。さあ取り込むがいい、そして早く剣の元へと駆けるがいい」
『構わぬか? 永遠に剣としていくかも知れぬが』
「くどい」
『・・では最後に何か伝えたい事はないか? もう人として口から言葉を発する事もなくなるであろう』
「ふふ、お前も本当に機械でありながら愉快であるな、あの男と語られる事があったならば、この様に愉快なのであろうな
・・・ならば、私の名を聞いておくがいい」
声は返事をしない、ククルの最後の言葉をただ聞き入る為だけに集中したかったのかどうかは分からないが。
「私の名はククル 菊理なり、そなたたち武神らの縁を『括る』ものなり」
ククルの身と心が暖かい光に包まれていく。それは新たに生まれる赤ん坊の気分ではないかと錯覚するほどであった。
現在地球上空にある空中庭園バラルの園。
再び襲ってきた外敵や内乱などの問題をようやく全て片付けたαナンバーズを出迎えたのは、全く誰も意図しえなかった空中に浮かぶ全長約1kmの岩塊の上に広がる幻想的な庭園であった。
その主ガンエデンは、己の力を使い、この地球を永遠の楽園にしようと言い、そして、その方法をαナンバーズに提示した。
「地球の外に住む者達を全て抹殺し、その後に結界で地球を覆い尽くす。誰も寄せつけず、誰も外界へ行かせず、ガンエデンの加護により、この星は真の意味で最期の楽園となるのです」
それは、外宇宙からの侵略者だけではなく。コロニーや月面都市などの地球外ファクターをも消し去り、宇宙に出ようする者の因果すらも抹消する事を意味していた。
それは地球圏内に住まう者の願いではないという事は明白なモノであり、そして、超古代の者が作り出した人造神ガンエデンは、強念者サイコドライバーを媒体に神として存在しており、その媒体である巫女の名は「イルイ」、その幼い少女はαナンバーズにある騒乱から救い出された時から、共に歩んできた友人であり仲間であった。
イルイをガンエデンの呪縛から解き放つ為に、この星の明日の為に、αナンバーズはガンエデンを倒すことを決意する。
「偽神ガンエデンよ! 貴様は我が参式斬艦刀によって! 今日この地で潰えるのだッ!!」
ゼンガーの雄叫びと同時に、彼の乗るダイゼンガーが前に足を駆ける。
そしてガンエデンの3種のしもべ「クストース」が彼らの前に立ちはだかるが、αナンバーズをくじく事は出来なかった。
クストースが倒れていく中の戦陣を突き抜け、ガンエデンに真っ直ぐに行く2体の機体がいた。
1機は、イルイを守る剣となると言ったゼンガーの駆るダイゼンガー、そしてもう1機はゼンガーの友であるレーチェルのヒュッケバインMk-Vトロンベであった。
「ゼンガー、今より竜巻を起こす!」
「応!」
先に行動を起こしたのは、レーチェルであった。ヒュッケバインは大地を蹴り、ガンエデンの上空へと向かい、そして、ゼンガーはダイゼンガーの唯一の武器である斬艦刀を展開させ、太刀から巨剣へと姿を変化させ、機を狙い、彼の構えをとる。
ガンエデンの数条の光を全て避け、ガンエデンの上空で停止し、ガンエデンの姿、巨大な翼を持った女性であり、そのまとった衣は全てを拒絶するかの様な姿の機械体を、レーチェルは見据える。
自分の上空で停止した敵機を意に介せぬ程、ガンエデンの心は広くはなかった。ガンエデンのその身から無数の光点が発生し、そして、ヒュッケバインに向かって、全ての光点から光線が放たれた。
しかし、それらヒュッケバインに放たれた光線全て、かの機体は動く事無く避けた。いや、当たらなかった。
「グラビティ・テリトリー!」
ヒュッケバインの目前の発生した重力によって湾曲した空間は、向かってくる光線全ての軌道をねじ曲げた。
「今だゼンガー! 我がトロンベの風を受け、稲妻の如くに駆けよ!!」
「応おおぉぉぉぉ!!」
その言葉を受け、ダイゼンガーは剣を構えながら上空へと飛び、目的の場へと唸りを上げながら突き進む。
ダイゼンガーが目的の地に足をつける。その地は、ヒュッケバインが作り出している重力の壁であった。
そして、重力の壁を踏み台にダイゼンガーは、跳んだ。
「斬艦刀! 重力稲妻落としぃぃぃぃぃ!!」
それは正に言葉の通り、重力の壁を足場に上空より閃光の速度で落ちて行く様は稲妻の如くであった。
瞬きであろう、ダイゼンガーの巨剣がガンエデンの体を断つのは、しかし、ガンエデンの心にあるのは、哀れみである。
「さあ、呼ぶのです神の子よ、愛しき彼の者を・・・」
その止まった時間に等しき瞬間、ダイゼンガーは場所をずらされた。強念者の力の一つ『瞬間移動』で、ガンエデンの目の前へと移されたのである。
それはゼンガーにとって、巨剣を振るう間合いを無くされてしまったのである、
ガンエデンの腕、その女性の様にか細き腕は、ダイゼンガーの振り下ろされる豪腕を掴み、いとも簡単に彼の突進を止める。
「例え光でも、その移動には時を有する。時を使わずに地を渡る者の前では無意味・・・、まずは、貴方の心を、剣を・・・」
ガンエデンが掴んでいるダイゼンガーの豪腕を中心に光が爆散する。
ダイゼンガーがガンエデンから離れていく、それはガンエデンが掴んでいる両腕が消し飛んだからである。
「ぐおぉぉぉ!!」
雄叫びを上げながら、ゼンガーは己の体である機体の体勢をなんとか整え、背中から地面に落ちる事を免れ、地面に足をつけるが、それと同時に、空を舞っていた彼の斬艦刀は、巨剣の元となっていた液体金属が四散し、現れた本身の刀は無残に折れ、地面に落下のままに突き刺さった。
「貴方の意思・・・、そのバラルに反する意思は、私が打ち砕きました・・・、意固地になるのはおやめなさい」
「まだだ! たかが両腕、俺の命には届いてはおらぬ!」
確たる意思を目に宿らせて、ゼンガーはガンエデンを睨む。だが、その表情は焦りに染まっていた。
「剣の者よ、戸惑う事はないのです。・・私と共に歩むのです。このガンエデンの下で楽園を築く道を・・・さあ、受け取るのです。新しき道標を、新たな剣を・・・・」
ガンエデンの巨大な翼の羽根が1枚空へと舞い、そしてそれは光となり、ダイゼンガーの斬艦刀に酷似した巨剣へと変わる。
光の巨剣はダイゼンガーの元に舞い降り、さらに光がダイゼンガーへと、何かを形成しながら伸びる。
腕、そうダイゼンガーの失われた豪腕と同様の腕を形成しながら、両腕の破損箇所へと伸びていき、光は、残っているダイゼンガーのその肩を掴んだ。
「おおおおおぉぉぉぉぉ!」
掴まれたのはダイゼンガーの両肩だけ、だが、己の心臓を、心を、魂をガンエデンに掌握されたかの様な戦慄がゼンガーに襲い掛かる。
「バラルの剣、ガンエデンの剣、それが剣である貴方に相応しき役目・・・・」
「違う!」
「違う事はありません・・・共に歩みましょう。望むならば、ソフィアと共に・・・」
「違うっ!!
アース・クレイドルを壊滅させられ、αナンバーズと共に歩んで、俺は学んだ! 剣は・・・楽園を守る剣などは有り得ない! 真に必要な剣は、信念を守る・・・平和を願いし者達のその心を守る剣でなければいけない!!」
「それが間違っている事に気づき、生まれ変わるのです・・・新たな剣として・・・このガンエデンの・・・」
光は確実にガンエデンの意思そのものであった。己の意思が焼き切れそうな熱さと同時に、誘いこまれる様な暖かさをゼンガーに与えていた。
「俺はならん! 人に造られた者でありながら、人の心を理解しようとしない人形の剣にはっっ!!」
『二度とぉぉっっ!!』
ゼンガーの声と、何者かの意思が響きあった瞬間、ダイゼンガーの前に力が広がり、その身が大きく後方に吹き飛ぶ。
力の衝撃波が過ぎ去り、砂塵が舞う中、それは少しずつ姿をはっきりさせる。
それはガンエデンからゼンガーを阻むかの様に、その地に突き立っていた。
それはまるで剣、そう斬艦刀の様な巨剣であった。
しかし、その巨剣には女性を感じさせる紋様があり、刀身の形は似ていたが、柄はダイゼンガーの斬艦刀とは似ていなかった。日本刀の柄を模した形をしておらず、ひし形の飾りが独特の雰囲気を出していた。
その独特の雰囲気にαナンバーズの何割かが、近視感を感じていた。前にプリペンダーという部隊名で戦った者だけが・・。
先程の衝撃波のせいか、ガンエデンの光の巨剣はその姿を失っていた。同様にゼンガーに纏わりついていた光も一片の塵もなかった。
ガンエデンの光の呪縛から解放されたゼンガーであったが、その意識はまだ朦朧としていた。しかし、次の言葉だけははっきりとその身に聞こえる。
『この刻のゼンガー・ゾンボルトよ! 其は何ぞ!』
突然の乱入者の存在は、ガンエデンの予想外の訪問であったが、それはαナンバーズにとっても同じ事であった。
ガンエデンを倒す為、現在も情報が収束し続けている極東の地、日本・東京のGアイランドシティにあるオーダールームでも、バラルの園に落ちた剣の正体は一向に掴めないのでいた。
「月面のマオ・インダストリーから通信、月面でも正体不明の飛行物体の確認情報が送られました。ただし、その物体の因果関係は全く検討がつかないとの事です」
「月面での確認情報とバラルの園の剣の落下軌道がほぼ一致、同型のモノと見まして、その軌道を検討した結果、この剣は月面より射出された確率があります。ただー確固たる証拠はないので、推測の範囲からは脱していませんが・・」
オーダールームの二人のスタッフから発せられた情報に、誰もが頭を悩ませる。ガンエデンの存在だけでも手一杯の中、更に正体不明の剣である。この状況下で敵味方の識別の情報がないのは、余りにも強大な不確定要素である。
「では、マオ・インダストリー社で造られたモノではないと言う事か。テスラ・ライヒでも零式斬艦刀のシーリングの確認が報告されたので、あの斬艦刀の正体は全く…つかめない」
オーダールームに収束しているのは情報だけではない。αナンバーズに所縁のある博士もまた、オーダールームに送られてくる情報を解析し力になろうとココに集まっている。ロバート・オオミヤ博士ことロブもその内の一人であった。
彼の心中は不安だった。だが、一抹の希望をあの剣に寄せている事にも彼は気付いている。
何故ならば、この登場は余りにも・・・・かっこいい! だからあの剣は、斬艦刀はゼンガー少佐の力になる事を、彼は決め付けていた。
「・・俺は・・我は・・・剣! 剣の者なり!」
目前の斬艦刀からの問いにゼンガーは朦朧とした意識の中、反射的にそう答える。
『その剣は何の為の剣ぞ!』
「・・悪を・・・悪を断つ剣なり!」
『悪を断つ剣ならば、全ての悪を超越せよ!
そして神が悪しき者ならば、その神をも超越せよ!!
その覚悟無ければ、時を違えし剣と同様に道を誤るのみ!』
斬艦刀から発せられる言葉の一つ一つがゼンガーの意識の混濁を澄ましていき。そして最後の言葉でゼンガーは完全覚醒する。
その言葉は、目の前の斬艦刀を物語っていた。
斬艦刀のひし形の飾りとその形が、艦内でみたデータバンクのスレードゲルミルの斬艦刀の姿と、ゼンガーのはっきりとした脳内で一致した瞬間である。
『神を超越する覚悟あるならば、我を手に取れ! そして・・・
受け継げよ! 時を違え、道を誤らないと決意したその意思を!!』
ゼンガーの意識の中は、イージス事件、特に惨劇であるあの最後、その事実が、ゼンガーの意志を強固たる一つにまとめ上げた。
彼の心の刀は抜かれたのである。
「ゼンガーよ、ガンエデンに逆らうというのですか。この神たるガンエデンに・・」
「不迷!」
ダイゼンガーの足が歩み始まる。
「いま先程・・・私に剣を向け、そしてその様な姿になったというのに・・・また剣を向けるというのですか」
「不倒!」
その歩みは遅いが、全く止まる事なく、斬艦刀へと着実に足を進める・
「・・・もう一度問います・・・ゼンガー・・」
「不変っ!!」
斬艦刀の下にたどり着くダイゼンガー、しかし刀を抜く両腕は粉砕されていたが、目の前の斬艦刀を抜く覚悟をもったゼンガーにとって、それは些細な事でしかなかった。
「この三不を以って、我は悪を・・・・
神を断つ剣なりぃぃっ!! 」
その雄叫びにも近い言葉を吐きながら、ダイゼンガーの口が斬艦刀も柄をがっしりと咥え、力と意思を以って、その斬艦刀を抜いた。
そして、斬艦刀は展開し、輝く光を放ち始め、その光はダイゼンガーその身を包み込んでいく。
ダイゼンガーを包んだ光は柱となり、そして更にその光の柱から歌声が聞こえ始めてきた。
『澳津鏡、辺津鏡、八握剣、生玉、足玉、死反玉、道返玉、蛇の比礼、蜂の比礼、品物の比礼・・・・・一、二、三、四、五、六、七、八、九、十・・・不瑠部、由良由良不瑠部・・』
その何かの数え歌かの様な声に周囲に静かに響くと、光の柱の太さが一段階増していく。
その歌声を聴いたαナンバーズらは、即座に思い出す。先程の歌に似た言葉を詠いながら戦いを挑んで来た者を。
それは、このオーダールーム内のスタッフ全員も思っていた。ただ一人だけを除いて。
「これは神道、しかもこれは・・」
その声の主は、ロブと一緒にきた考古学専門の博士、安西エリであった。
「知っているのですか安西博士?」
「ええ、失われた物部の宝である十種神宝を使った「布瑠の言」と言われる言霊で、それがもたらす事は・・・死者再生」
「・・死者再生・・なら今おこなわれている事は・・・」
ロブは自分の願望が当たっている事を疑わなかった。そして、続ける言葉を、ゼンガーらしい言葉で出す。
「武神・・再臨!」
「・・ククルか」
先の歌はゼンガーにも伝わり、あの斬艦刀に受け継がれているもう一つの意思を確認する。
ダイゼンガーの全てが生まれ変わるかの様に光と化している為、ゼンガーの周囲全てが光であり、そして、不思議に静寂に包まれており、先の問いに答える声はなかった。
「・・・もう何も問わぬ・・・・だが、
力は借り受ける!」
ゼンガーの気合と共に光量は増し、そしてダイゼンガーの顔だけが現れた瞬間、口の辺りに光が宿り、それはフェイスガードと形を現す。
「超えよ! 武神の域をぉぉぉぉ!!」
ゼンガーの雄叫びと共に光は収束し、それは人型の形を成す。
「超武神装攻っ!
グレートッ! ダイ!ゼン!ガーァァァァ!!」
ゼンガーは新たに生まれ変わったその超武神の名乗りを上げた。
その姿は巨躯である元の身が更に一回り大きくなり、鎧武者の様であった姿は、鬼の様な荒々しさと神々しい気迫を兼ね備えた鬼神へと変わっていた。
「・・神を超えたと言うのですか・・・それは人が思う愚行でも余りにも愚かしい事・・・」
「黙れ!」
ゼンガーの気合一閃は、ガンエデンだけではなく、周囲全ての有機無機を黙らせてしまう。
「そして聞けぇぇぇぇぇぇう!!」
もはや、ゼンガーの言葉を止める事は神でもかなわず。
「神を殺し! 魔をも斬り捨てる!
我に殺神斬魔の覚悟ありっ!!」
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